その上品な光沢感と、凛とした佇い
着る人を虜にする、軽やかな着心地に裾裁き
その姿で歩けば、シュッシュッという衣擦れの音に心地よさを感じる大島紬
一度は袖を通してみたいと憧れられる
最高の洒落着物「大島紬」をご紹介いたします。
大島紬 とは
日本三大紬(結城紬、塩沢紬)の1つである大島紬
発祥は、鹿児島県の奄美大島。
約1300年以上前(奈良時代)に、東大寺の献物帳には、「南島」から褐色の紬が献上されたと記されており、それが奄美大島で発祥した大島紬のことではないかと言われており、日本でもっとも長い歴史ある織物です。
大島紬の基本
大島紬は定義を以下にように設定しています。(本場奄美大島紬協同組合H.Pより)
・絹100%
・先染め手織り
・平織り
・締機で手作業により、経緯絣および緯絣を加工したもの
・手機で、経緯絣および緯絣を絣合わせをして織上げたもの
大島紬は紬糸ではなく「生糸」/ 大島紬は「紬」じゃない?
一般的な「紬」と呼ばれる着物は「紬糸(真綿糸)」で織られていますが、
大島紬は、その名称こそ「紬」とありますが「紬糸」を使っていません。
「大島紬は、紬じゃない」と言う方がいらっしゃるのは、これが理由です。
原料で考えたら、大島「紬」ではなく
「大島絣」や「大島織」っていうのもいいかもしれないですね。
養蚕がおこなわれるようになってからは、
大島紬も、蚕の繭から取り出した絹(シルク)に、撚りをかけた「生糸(撚糸)」を使用するようになりました。(撚り:糸5~6本をねじり合わせること)
奄美大島の牧絹織物にて独自で開発された商標登録をしています。
大島紬の産地は3箇所
大島紬は3つの地域で製造されています。
- 鹿児島 (本場大島紬織物協同組合)
- 奄美大島(本場奄美大島紬協同組合)
- 都城 / 宮崎県(都城絹織物事業協同組合)
奄美大島は、鹿児島県の離島ですが大島紬の産地としては「奄美大島産地」「鹿児島産地」とわかれています。
大島紬の見分け方/反物
大島紬は、各産地の組合にて品質や技術の維持として1反ごとにすべて検査をされ、
その厳しい規定に合格したものだけが「本場大島紬」として認められます。
証紙(登録商標)の種類
大島紬は、着物業界一厳しいといっても過言ではないほど数多くの規定があり、
その基準に合格した大島紬だけに「登録商標」と、
経済産業大臣指定「伝統的工芸品」の伝統証紙が貼られています。(写真右)
反物の端に、この証紙が貼られている大島紬だけが「本場大島紬」と呼ばれます。
なお、反物の織口には「製造者」か記載されています。
各産地の組合にいる大島紬の検査技師により、
原料の検査、長さや重さの検査、染色の検査、絣の検査、傷や汚れなどの検査、
そして「風合い」などを検査し、合格した大島紬の反物にのみ証紙が貼られます。
奄美大島の大島紬検査技師さんにインタビューをした際、
「大島紬の表面の中でもとくにチェックしているのは、耳(反物の両端)です。ここの美しさで仕立てたときの背中の美しさが決まるから。」と教えてくださいました。
「奄美大島」の大島紬の証紙/地球印
奄美大島の本場奄美大島紬協同組合にて検査を行っています。
一部機械織りもありますが上記の証紙は貼られていません。
奄美産地で生産された(製品の品質保持を証明する)証紙が貼られております。
また、オリジナルで製造している大島紬もあります。
(検査をしていないため証紙は貼られていません)
(草木染め大島は、テーチ木以外の植物で染めた後、奄美大島の泥で染めます)
「鹿児島」の大島紬の証紙/旗印
鹿児島の本場大島紬織物協同組合にて検査を行っています。
緑青の縁取りの旗印の証紙ですが、
経緯絣、緯絣、縞大島の3パターンがあります。
縞大島にはオレンジの縁取りの証紙が貼られています。
手織りの大島紬には、鹿児島県本場大島紬協同組合連合の伝統的工芸品の証明シールが貼られており、機械織りの大島紬(縞大島・格子大島・無地大島)には、鹿児島県絹織物工業組合が発行している伝統的工芸品の証明シール、または円形の正絹シールが貼られています。
「都城」大島紬の証紙/鶴印
鶴印の証紙が貼られています。
大島紬の種類 / 価格(価値)のこと
大島紬は「絣の種類」「染めの種類」「柄の種類」など様々な特徴があります。
大島紬は、1人で製造はできないため、作家者と呼ばれるものはありません。
そのため、作家のブランドイメージなどで価格が変わることはありません。
約30~50工程ある細かな作業をそれぞれの職人さんで繋いでいき、約半年~1年半の時間をかけて1反の大島紬が完成します。
一般的に、大島紬の価値(価格)は、製造工程における技術の緻密さや難易度などにより変わってきます。
大島紬の「絣(かすり)」
絣とは、織物の技法。
「経糸」と「緯糸」に
「地糸」か「絣糸」、また両方を使用するかなどにより、絣の種類が異なります。
その
経糸に「地糸」が使われるのか、「絣糸」が使われるのか、または両方使われるのか。
緯糸に「地糸」が使われるのか、「絣糸」が使われるのか、または両方使われるのか。
で、織り方の種類が決まってきます。
なお、
「地糸」 は、単色で染めた糸のこと。
「絣糸」 は、絣模様を作り出すためのに複数の色で染められた糸のこと。
地糸は、泥染めなど単色で染めるため生糸が出来上がるとすぐに染めの工程に入る。
絣糸は、点と点を合わせて絣模様 → 反物の柄になるため、
その工程は「締機・むしろ染色・目破り・摺込み染色・ばら破り・・・」など多くの工程を経て1本の糸(絣糸)ができあがります。
経糸・緯糸の、
地糸(無地糸とも言う)と、絣糸が完成し、やっと「織り」の工程が始まります。
絣の種類
- 経糸 → 地糸と絣糸
- 緯糸 → 地糸と絣糸
- 経糸 → 地糸と絣糸
- 緯糸 → 絣糸のみ
- 経糸 → 地糸のみ
- 緯糸 → 地糸と絣糸
- 経糸 → 地糸のみ
- 緯糸 → 絣糸のみ
織りの種類が多いほど複雑になり、
職人(織工)の高い技術が求められますが、そのほかにも糸の種類や、染めの難易度、工程数、さまざまな職人の技により、大島紬の唯一無二の価値に繋がります。
※なお、上記の手織り以外にも、絣を合わせない「ジャジャ織り」や「機械織り」の大島紬もあります。
糸の密度と配列 / マルキ・算・一元式・カタス式など
織物ならでは、また大島紬ならではの「糸の密度や配列」を表す単位について。
その仕組みは、日本一といっても過言ではないほど複雑で、解説だけで理解することも大変難しいのですが、それほど繊細な技術で大島紬がつくられていることがわかります。
- 経糸の密度の単位を「算」という。
- 1算は糸80本。13算・15.5算など一般的ですが、18算、20算の大島紬もあります。
(例)13算の大島紬の場合
筬幅40cmに1算(80本)×13 =約1040本」になります。算の数字が高いほど緻密になり、職人の技術も求められるため高価になります。
- 経絣糸の本数(密度)の単位のことを「マルキ」という
- 1マルキは経絣糸80本
5マルキ、7マルキ、9マルキが一般的ですが、12マルキなどがあります。(目安の計算)
反物の経絣糸の総本数 ÷ 80 = 〇マルキ
マルキの数字が高いほど緻密になり、職人の高い技術が求められるため高価になります。
この絣模様の取り入れ方により、大島紬の様々な柄や表情ができがります。
一元式 (ひともとしき)
十文字や風車のような絣模様をしており「経絣糸2本 × 緯絣糸2本」の組み合わせで出来ています。一元絣とも呼ばれます。
片ス式(カタス式)
アルファベットの「T」のような絣模様をしており「経絣糸1本×緯絣糸2本)の組み合わせで出来ています。
割り込み式(わりこみしき)
一元式 × カタス式の絣模様が、組み合わさって出来ています。
①経絣糸2本×緯絣糸2本
②経地糸2本×緯地糸2本
③経絣糸1本×緯絣糸1本
④経地糸1本×緯地糸1本
上記の①~④を繰り返し織る。
その他、二元式・三元式などもあります。
大島紬は、糸数や配列の複雑さだけでなく、糸の種類や色によっても職人(織工)に求められる技術は大変高く、世界で類を見ないほどの緻密で繊細な織物だと言われています。
世界三大織物(ゴブラン織・ペルシャ絨毯・大島紬)と語り継がれているのにも納得がいきます。
日本を代表する職人たちの伝統技術が世界へ広がっていくこと。
そして、途絶えることなく、未来へ繋がっていくことを強く願います。
大島紬の「染め」
大島紬は、泥染めが主流となりますが、泥以外にも様々な染色の種類があります。
なお、泥染めは奄美大島の泥田でのみ行うことができます。
染めの種類別 大島紬
泥大島
車輪梅(テーチ木)で染めた後、泥で染めたもの
(※車輪梅のことを、奄美の方言ではテーチ木と呼びます)
泥藍大島
藍で染めた絣糸を、テーチ木と泥で染めたもの。
藍染大島
正藍大島紬
(画像未掲載)
白大島
糸を染めていないもの
(化学染料で糸を染めたり、白い泥を使用した白恵泥という大島紬もあります)
草木泥染大島
車輪梅(テーチ木)以外の草木と泥で染めたもの
色大島
化学染料を使用して染めたもの
大島紬の「柄」
近年の大島紬は、様々な柄や現代柄を取り入れたものも多くありますが、
伝統的な柄は、今でも人気で多くの大島紬ファンに愛されています。
龍郷柄
秋名バラ柄
亀甲柄
男物大島紬の柄として代表的な亀甲柄。
亀甲とは、亀の甲羅のこと。縁起の良い柄として大島紬にも絣で表現されている。
反物の横巾に亀甲柄がいくつ並べてあるか(柄の緻密さ)でその価値ともされている。
例)80亀甲,100亀甲,160亀甲など
西郷柄
男性大島紬の柄。
格子の中に「絣」模様を入れ込む柄。その緻密さは職人の高度な技術を要するため、
当時の薩摩の英雄「西郷隆盛」にあやかり名づけられた柄。
西郷柄には、作られた地により「赤尾木西郷」「戸口西郷」などの種類がある。